ボーナスステージ三軒茶屋

高田馬場から引っ越した後、大須観音からも引っ越しました。

正直者はすぐに死ぬ/ゴジラについて

◆paionia@名古屋

 

paioniaがバンドとしては2年くらいぶりに名古屋にやってきた。土日だったので観に行ったのだけれども、いよいよもって彼らの「怒りによって駆動するエンジン」に驚嘆せざるを得ない。何年も前に、たぶん大学を留年してフラフラしていた時だと思うけれど、vo.の高橋さんと話す機会があって、そのとき彼らはドラマ―を探していて、もしよかったらどうかと(たぶん友人として)誘ってくれたことがあった。僕は当時、大学を留年したこととアルバイトに起因する椎間板ヘルニアを患っていたことから「世の中に対する不良債権感」が最大まで高まっており、正直なところこの期におよんで就職をせずにバンドでやっていく、ということに恐怖したし、何よりも彼らのようにいろんなことに怒りを感じることができなくなっていた。

 

早い話が逃げたことになる。高校に進む時も大学を選ぶときも就職するときでさえ、僕はツブしの効く道を選んできた。その結果がコレかよと最近はよく思う。人と話をしていると皆「いかに自分の意志でもって自分の人生を切り開いてきたか」について話すので世の中立派な人ばかりだと思うし、paioniaを観に行ってさらに精神をやられた気がする。

 

ライブが終わった後にvo.高橋さんとba.菅野さんと手羽先を食いながら話した。高橋さんが中座したとき菅野さんからライブの感想を求められ、上記のようなことを伝えたところ、彼らも相変わらずぬかるみの中にいる、というような話をしてくれた。そしてまたドラマ―が不在になるのだそうだ。僕は菅野さんに「paioniaの怒りというか、そういうエネルギーを極小のノイズで受け止められる/共感できるドラマ―は、そこまで多くはないと思う」と伝えた。彼は「先代のドラマ―がいなくなったのもまさにそういう理由である」というようなことを言ったように思う。酒に酔っていたのかその場の空気によっていたのかはわからないけれど、僕も最近の局所的な怒りとか不条理とか、そういうものを伝えたように思う。とにかく酔っぱらっていて覚えていない。しかし彼らのエネルギーに比べると、とにかくノイズまみれのエネルギーであったのだろうなーと思う。覚えていなくてよかった、心から。

 

“売り物の俺は”というpaioniaの曲があって、どうもそういった怒りとかそういうものを切り売りしています、というような曲であるように思う。

 

 

ゴジラ

 

そういう心持ちでゴジラ(今封切られているアニメのやつ)を観に行ったわけだけど、いまひとつ盛り上がれなかった。自分の心理を別にしたときの、盛り上がらなかった原因は以下だと思う。

 

・現代じゃない

 

まずはこれが非常に大きい。というかこれに尽きる。今作の舞台は人類がかつてゴジラとの生存競争に負けて宇宙空間に逃げた後、やっぱり地球に帰りてぇなあということで戻って来たところ二万年くらい経ってました、という舞台設定であるため、ビルとか車とか逃げ惑う群衆とかが存在しない。『原生林を舞台に未来ロボットとゴジラがドンパチ』という映画であるため、ゴジラのスケール感の根拠となる比較対象がない。これはいただけない。

 

ゴジラという映画は平和ボケしている人類に鉄槌を下すところから始まって、今では現実に辟易している人々の代わりに現実をぶっ壊してくれる存在として(少なくとも僕は)捉えられたりもしているので、「もう地球はゴジラのものになっていて、ゴジラは異物である人類を迎撃する側です」という視点は確かに新しかったが、正直なところ思っていたのと違う感が大きくなってしまったように思う。

 

・人類がアホだし危機感がイマイチ

 

まあゴジラシリーズの人類は基本全員アホだろ、というのはあるにせよ、台詞回しの所為なのか、いまひとつ緊迫感がなかった。ゴジラと戦うところは確かにドッカンドッカンしてて良い感じではあるものの、のんびりとした印象を受ける。何故か。まずひとり、完全に余裕をかましてる奴がいるということと、中盤のわりと早い時期に「もしゴジラを倒せなかった場合、我々はどうなるのか?」という問いに答えが与えられてしまったことによる。ゴジラを倒す、という命題が、『長期の宇宙巡航技術を人類が既に持っている』ことと、上記の答えによって希薄になる。結果としてゴジラを倒すという命題は最終的に一個人のエゴになり下がり、ゴジラからしたら快適な地球ライフを送っていたところにチョロチョロと蠅みたいな奴らが群がってきて邪魔で仕方ねぇなくらいな認識であると思う。

 

ゴジラに何を求めるか?僕の場合は『すべての楽観をぶち壊す恐怖』としてのゴジラ、また『せめて虚構の中でも、現実をぶっ壊してくれる代弁者』としてのゴジラだ。これまでゴジラは(迷走を含みつつも)概ねそういうエンターテイメントを含んでいたと思うが、今作だとそういう風味が薄かった、ということなんだろうと思う。

 

以上です。ご無沙汰しておりました。